先日の夜、用意を済ませた私は、
カウンターの隅で、ウイスキーの本を読んでいた。
まだ早い、誰も来ないだろう、
いや、それよりも老眼が、
メガネを外さないと、字がよく見えない、
老いてきたものだと、ため息をついた。
そのため息と同時に扉が開いた。
そこには、センスのいいコートを着た紳士が、
ゆっくりと、コートを脱ぎ、
席に座る。
そのしぐさを見て、懐かしさを感じた。
「何にしますか?」
「まずはビールを」
ビールを出し、話しかけた。
「今日は、一段と寒いですね」
「そうかなぁ・・・」
低く響く声、ハードボイルドな男だ。
しかしこの声は・・・
「マスターもう何年になる」
「はい、13年目になります」
「頑張ってるね」
と、二言三言、
「じゃあシングルモルトを」
「飲み方は、どうされますか」
「ロックで」
「では、これはどうでしょうか」
と、ハードボイルドが一番似合うモルト、
「タリスカー」を出しかけて、止めた。
少し照れくさかったのだ。
対極のマイルドな「アベラワー」に変えた。
「では、それで」
男は、さっと飲み干し、
「では、又」
「ありがとうございました」
ドアの前で、男が止まった。
「又、来るよ」
「はい、又来て下さい」
ドアを開け、男が出る時、
小さな声でこう言った。
「君が気付くまでね」
BARとは摩訶不思議な空間なのだ。
古い友人であろうと、
何らかの理由で正体を明かしたく無い、
そんな事もある。
気付いていても、気付かない振りをしなければ、
いけない時もある。
風貌は変わっても、
変わらないものがある。
声だ・・・
今度は名乗って下さい、
高校時代の私の大事な友人、
F君・・・・
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