黄昏ウイスキー  TWILIGHT WHISKY

大阪は京セラドーム前の小さな本格的BAR「BARin」の日記 

父との思い出

私の父の事は、殆どブログには書けない、
と全てが放送禁止だ。
が、少し話そう、これは少し前に書いた記事だ。


以前も書いたが、戦争に実際に行った方から、
「戦争の話を聞く会」というイベントで、
当時89歳のおとんに店に来てもらった。
店は満席、いや立ち見、NPO法人の方達が、
色々と声を掛けたようだ。
そこで、初めての質問が出た。

「死にかけた経験ありますか?」という質問に、

「ある」と、答えたおとん、
一同、固唾を飲む、
銃撃戦が頭をよぎる。
おとんが語り始めた
「中国人の人妻を野原で襲い掛かったら、その旦那さんが出て来て、
棒で殴りまわされ、いや〜あの時は死にかけたよ〜」

「・・・・・・」

父よ、それは強姦未遂だ・・・
まあ、リアル亀仙人なのだが、
私が子供の時の話をしよう、
年配の方なら解るだろうが、
昔、お菓子屋さんで、蚕(カイコ)を売っていたのだ。
今では信じられないだろうが、
繭(マユ)を作り、最後は蛾(ガ)になるのだ。
その工程を楽しむだけなのだが、
私は勢い余り、大量に買ってしまった。
毎日、確か桑の葉を与え大きくするのだが、
その中の一匹が、普通は白い幼虫なのに
何故かどんどん黒くなる子がいた。


何かの病気なのだが、虫の病気などわかる筈も無い
今にも死に掛けているのだ。
私は気味が悪くなり、捨てようと思った。
ここでおとん登場なのだが、
捨てたら可哀想だから、そのままにしておけと言った。


次の日おとんが帰って来た時、
何か袋を持っている。
その袋の中から、かまぼこの板や、
ペラペラに磨がれたカッターナイフ、
糸、針が何本か出て来た。


おとんは恐ろしい事を考えていた。
それはなんと、手術道具なのだ。
カイコを手術する気なのだ。


気は確かか!と思う私を無視し
カイコをかまぼこの板に乗せ
ピンと糸で押さえ、動けないようにした。
間違えなく実話なのだが、
ペラペラのカッターナイフで背中を切ったのだ、
私は絶対死ぬと思った。


そして次にもっと信じられない事をした。
その傷口に「リバノール」を塗ったのだ。
それは傷薬だ。現在の「マキロン」のようなものだ。
だ、大丈夫か、と私が聞くと
「リバノールは万能薬や!」
と答えたが、明らかに傷薬だ、、、
おとんは信じられないぐらい手先が器用なのだ。


もう嘘と思われてもいいが、
針を研いでこれまたペラペラにしていた。
その針で今度は傷口を糸を付けて
縫ったのだ、、、、
最後に一言「これで大丈夫や」
うそ〜!どこに根拠があるのだ。
身を裂かれ、傷薬を塗られ、糸で縫われたんだぞ!


おとんはご満悦な顔をして、晩飯を食べていた。
さあブラックカイコ君の運命はいかに
数日後、信じられないがマユを作ったのだ、他の子達より小さく
中が少し透けていたが確かにマユを作ったのだ



恐ろしい男だ、、、今でも鮮明に覚えている。
生命の尊さを教えてくれたのだと、私はその時思った。


マユは綺麗なのだが、この後蛾になる
私は箱に入れ、空気の穴を開け、テープで止め
棚の上に置いていた。その事をすっかり忘れていた。
ある晩、ガサガサという音で目が覚めた。
ふ化したのだ。私はテープを取り、箱を開けた瞬間


地獄絵図を見た、何十匹という蛾が部屋中を飛び回った。
銀粉を飛ばし、蛍光灯に群がった。
思わず声を上げた。おとんも飛んで来た。
ここからが本当の地獄絵図になった。
おとんは飛び交う蛾達を、狂ったようにタオルでハエのように
次々と叩き落し、みるみる蛾の屍の山を築き上げた。
あの手術は一体何だったのだろうか、、、、