下町でBARを出して十数年、
BARが何なのか、
よく解らない人達を相手にして来た。
かなり疲れて来た。
そんな時、
早くから来てくれた二人組みの男性、
「キャンベルタウンモルトは何がありますか?」
「キャンベルタウンは蒸留所が少ないですが、
スプリンバンク、ロングロウ、グレンスコシア19年、21年、
ロングロウはランドレッツ&キルダキッズもありますよ」
もう一人の方は、
「オーヘントッシャンはありますか?」
「ありますよ。クラッシックかアメリカンオーク」
その後来られた若い男性、
「ラガヴァーリンはありますか?」
「ありますよ、ペドロヒメニスも」
「では、それを」
「ピート香がよく解らないのですが」
「それなら凄いのがありますよ、オクトモア」
「では、それを」
その後も若い男性が、
「ウイスキーを少し覚えたいのですが」
「では、これぐらいから始めてみてはどうですか、
クラガンモアです」
その後も、その後も、
若い男性がウイスキーを覚えたいと現れた。
最後に来た男性は、
「ノッカンドウはありますか」
「ありますよ」
「えっ、あるんですか?」
「もっと凄いノッカンドウがありますよ」
「そんなのがあるのですか?」
「はい、50年前の1964年蒸留物がありますよ」
「それは、凄い!ボーナスが出たら飲んでみたいです」
BARとしては当然の会話なのだが、
ここまで来るのに、
十数年・・・
いや「マッサン」効果なのか?
今まで地道に溜め込んできた知識を、ウイスキーを、
フル回転させた。
ついに役に立った。
必死に説明したかなり疲れたが、
こういう疲れないなら、
嬉しい、大歓迎だ!
しかしBARとしては当然の会話なのだが・・・
こんな夜が毎晩ならば、
辞めたくなる事も無いのだが・・・