黄昏ウイスキー  TWILIGHT WHISKY

大阪は京セラドーム前の小さな本格的BAR「BARin」の日記 

春子ばあさん

どうする事も出来ない程の暇な日々が続く、
持て余す力をどこに放出したらいいのか、
ぼんやりと名も無き小さな公園のベンチ、
曇った空を眺める。



別に吸いたくもない長めのタバコを吸いながら、
ならばせめて、ここに書こう、
未来永劫、直木賞にも芥川賞にも輝く事は無い、
文章なのだが、



人に思いを伝える事の難しさを、
あらためて教えてくれたこのブログで・・・




夏は足早に去る、
それ故愛しさが募る。
だからなのか思い出は夏の情景が多い、


その夏の足音が近づいた頃、
娘が孫を連れて店に来た。
滅多に店に来る事など無かった長女、
孫が出来ると時折顔を出す。


その娘の口から驚くような言葉が、
「動物園に行きたい」



私が何故驚いたか、
この子が自分でどこかに行きたい等、
一度も口にした事が無い、
いつも、いつも私が行く所、行きたい所に、
何も文句を言わず、
一生懸命後ろを付いて来た。


あの時も、そうあの時もそうだった。
その娘が、自分の娘の為に・・・
母になったのか、
そう実感した。


大阪は天王寺動物園
私も幼き日、何度も行った。
娘も何度か連れて行った。


すぐに行ける。
すぐ近くにある動物園、
そう思っている間に夏は過ぎ去った。


後悔先に立たず・・・
何故、娘が行きたいと言ったあの初夏に、
どうして私は連れて行かなかったのか、


その悲報が和太鼓の乱打のように胸に響いた。
私があの幼き日に見た象さん
娘を連れて行ったあの日に見た象さん
孫が生まれたばかりの瞳で見たかも知れない、
あの象さん・・・
あの時も、そうあの時も、
小雨が降る中、
日が照りつける中、
何度も見た。
父に抱かれた小さな私がモノクロの写真に写っている。
その後ろにいた象さん・・・




春子と言う、
もう既におばあさんになった象さん、


来園64年目の今年2014年7月30日、
多くの男達が懸命の起き上がらそうとする。
声を掛け、チェーンで吊るし、
しかし、この事が逆に苦しめる事に、
飼育員さんが言った。
倒れたらそのままにしようと思ったが、
やはり実際は出来なかったと、



そしてついに、
力尽き永眠・・・
あの時、すぐに行っていれば、
会えたのに・・・


すまない娘よ孫よ、
本意では無いだろうが、動物園に来た以上、
あなたの使命は一人でも多くの人に見てもらうことだったのに、
会いに行けば良かった・・・

では、今夜私は一人でも多くの人に、
酒を注ごう・・・