先日、暇な夜に一人、
BARの業界紙を読んでいた。
そこには、都心の華やかな店が、
沢山載っている。
それに比べ、当店は、掃除しても、掃除しても、
小汚いな〜、
と、あたりを見回した時、
扉が開いた。
そこには、ご老人が一人、
紙袋を持って立っていた。
じっと私を見ている。
だ、誰だっけ・・・
「あ、お父さん」
それは、あの夏の日、
当店を最後に消息を絶ち、
帰らぬ人になった。
当店、常連氏のお父さんだった。
「先日は、どうもお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ、落ち着かれましたか、どうぞ、どうぞ」
と、カウンターに、
二人っきりの空間、
音楽は、静かに掛けていたが、
何故か消した。
色々と話を、
私も覚えている限りの思い出を、
時折、微笑まれ、
時折、うな垂れるお父さん、
急に悲しくなって来た。
さっきまで、最後の夜に一緒だった。
常連氏が居たのだが、入れ違いだった。
私一人・・・
だが、これもこの仕事の宿命、
性なのか、業なのか、
いや、ここは私一人、受け止めなければ、
そして、過剰にならず、あくまでさりげなく、
おもてなしを、
しかし、哀しみが見える。
胸に突き刺さるようだ。
怒りに似た感情が、込み上げて来た。
彼の口癖は、
「世の中には、美味しいお酒が沢山ある。
まだまだ飲んでいない、だから早く死ねない」
いつも、そう言っていたのに、
紙袋を持ち、電車に乗り、
駅から歩き、
こんな小汚いBARまでわざわざ、
ありがとうございます。
と、心の中で、何度も呟いた。
しかし、今、お父さんは、
どんな気持ちで、私と接しているのか、
又、逆に私なら、出来るのか、
そう思うと、涙が出そうになったので、
腹に力を入れた。
帰り際、その紙袋を渡された。
「これは、ほんの気持ちですので」
「ご丁寧にありがとうございます」
と、見送り、
又、一人、
カウンターに置かれた紙袋、
よく見ると、草書で何か書いてある。
百人一首のような、
「人のよろこびかなしみ まさに我が心として
先人のつたえし一期一会のこころ ・・・」
こ、これは・・
私は振り返った。
そこには親愛なる兄貴の祭壇が、
そこに、わたしが添えた「相田みつお」氏の言葉、
「一期一会」か・・・
↓お手数でなければ押して下さいね!
にほんブログ村