その日、妙な風が吹いていた。
別に胸騒ぎがした訳でも無く、
少々やる事があって、
かなり早くから店に居た。
凍てつくような寒さ、
辛抱が出来ず、
暖房もMAXに、
時間が来たので、
看板を点け、
タバコを・・・
と、思った時、
男は入って来た。
若いが、物静かそうな紳士、
入って来た所作を見て、
構えた。で、出来る・・・
かなりBARに慣れている。
百戦錬磨の強者、
目を細め、顔に出そうになった。
しかし、そこは平常心、
軽く会話を、
「今日も、寒いですな」
「そうですね、今日は少しだけマシですが」
う~ん、気温にも敏感なのか、
男が言った。
「流石ですね、早くから暖房を付けて、
店を温めてたんですね!」
たまたま・・・なのだが・・・
軽く、足払いをされた。
いかん・・・このままでは空気が張り詰める。
これは、私のスタンスでは無い、
お気軽、イージー、フレンドリー、
相手の世界に巻き込まれたら、
自分らしさを失い、
タダの店員になってしまう、
「何を飲まれますか?」
「エビスビールはありますか?」
ある。が、私の店の冷蔵庫には、
毎月のように、入れ替えている。
日本のクラフトビールが沢山ある。
しかし、それを説明すると、
時間が掛かり、スマートにはならない、
ここは、相手も風に乗るべきだ。
と、数秒の間に、脳の中が大阪マラソンのような人出になった。
手探り、手探り、
しかし、間合いを詰めなければ、
エビスビールを出して、言った。
「ラッキーエビスをご存知ですか?」
「いや、知りません・・・」
籠手が入った。
「このラベルの中に鯛が二匹あるんですよ」
「へぇ~そうなんですか」
何百本に一本だが、
恵比寿さんの籠のなかに、
もう一匹の鯛が居るエビスビールは実在する。
さあ、次の注文は・・・
そ、そこか・・・
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