手も足も出なかった。
人と喋りたくも無くなった。
完全なる敗北、
数日前、恰幅の良い初老の紳士が現れた。
ただならぬオーラ、
ヤバイと思ったが、
だからとてどうする事も出来ない、
「結構揃ってますね」
「いや、まだまだですよ、お恥ずかしい限りです」と、
完全に白旗を持った。
「あれは無いんですか?」
え、そ、そこか・・・
確かに数日前、ネットで見ていた。
あの時注文していたら、
昨夜入荷していただろうが、
当店では手の出ない値段だった。
「あれは、かなりお高いので」
「では、あれは?」
そ、そこ・・・
一体何者なんだ。
何故、そんな物を知っているのだ。
情報が早い、
それも実はその時、
同じようにネットで見ていた。
どんな味なんだろう?と、
「では、あれは?」
無い・・・
「あれは?」
無い・・・
「あれ?」
計5本、全く無い、
ここまで無かったのは初めてだ。
いや、全て未知の領域、
しかも、グッドチョイス、
多分、一本も外れは無いだろう、
この方、本物だ。
嫌がらせや、俄か、偽者は沢山居る。
わざと手も届かないような高価な物や、
BARでは買わないような、奇天烈な物を注文し、
無いと言うとニヤニヤする。
そういう下品な輩では無い、
少しお高い物なのだ。
が、当店ではそれが、
乗り越えれない壁なのだ。
下町の限界・・・
「そうですか、残念ですね、あれば飲みたかったのに」
確かにあれば飲むだろう、
「年代物は?」
「アードベッグ75年のこれと、
ノッカンドウ64年のこれが」
「じゃあ、それと、それを」
ほら、やっぱり・・・
「私は50万、100万クラスは買って、
家で飲むんです。ので、そのクラスはBARで」
確かに、北新地なら言われたウイスキーのクラスなら、
置いているだろう、
「この前新地のBARから40万の請求書が来て、
驚きましたよ」
「・・・・」
そりゃ驚くは・・・
週に1~2回でそれなら、
「ブラックボウモアは合計6本飲みました」
「・・・・」
世の中が広いと言う事を解って貰おうと、
この下町で頑張っているが、
世の中の広さを思い知るのは、
いつも私だ・・・
嫌味が無く、
笑顔で、
無いと言うと、
本当に残念そうな顔をした紳士だった。
しかし、ここが本当に限界なのか?
誰かに限界を決められていないか?
まあ、惨敗した事に間違い無いので、
惨敗記念日と名付けよう・・・
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