一体どれだけ飲んだのだろう、
記憶が無い・・・
のどが渇いた。
夕暮れ、そして秋の長い夜が始まろうとした時、
悲報を聞いた。
すぐに確認の電話を、スタッフの方に、
と、思ったが、店が忙しく、
手が回らない、
それから、次々とお客さんが、
何人か私を心配して、
訪れてくれた。
「大丈夫ですよ」
と、答えたが、大丈夫では無い・・・
そして、次々とメールが、
店は満席、メールも満杯、
もどかしいが、考え込まずに済んだ。
有難い、
親愛なる兄貴「桑名正博」氏が、
旅立った・・・
もう、永遠に会えない、
そう思うと、周りがよく見えなくなった。
走馬灯、実はよく知らないが、
走馬灯のように、思い出が駆け巡った。
全てが映画のワンシーンのように、
頭に浮かぶ、
私の店には、何も無い、
カクテルの腕も、
酒の品揃えも、
そんな店に、オープンして、暫くした頃から、
兄貴、桑名さんが来られるようになった。
当店の唯一の自慢だった。
少し、手が空いたのは、深夜0時を回った頃だった。
スタッフの方に電話を、
え、そうなんですか・・
驚いた。私の店から、さほど離れていない場所で、
兄貴は眠っていると、
「今から、来られますか?」
走り出しそうになる衝動を抑えた。
「いや、まだお客さんが居てますので」
本音は、会いたいのか、眠る姿を見たくないのか、
実はよく解らないのだ。
昨夜の酒が残っている。
そして今、少し放心状態なのだが、
追悼の意味も込めて、
少し長くなるが、
親愛なる兄貴「桑名正博」の事を書かせて戴こう、
兄貴は豪快な人間だ。感情も激しい、
人は、皆どうしても、そこに目を奪われる。
だから、誤解も多いだろう、
まあ、確かに無茶苦茶なのだが・・・
だが、私は兄貴の繊細かつ、心優しく、
人間味溢れるところが大好きだ。
何故、兄貴が、私の店に来るのか、
それには、実は訳があった。
当店の、すぐ近くに有名な会社の社長さんが、
自分達の遊び場を作り、
そこに毎晩、色んな方が、集まっていた。
その社長さんの人柄に惚れ、
慕う、有名人、芸能人の方が多く、
その中の一人が、兄貴だった。
私は、その社長さんの招きで、
そこに出入りしていた。
毎晩のように多くの業界人、有名人、芸能人の方達が来ていた。
名前を挙げたら、かなり驚くと思う、
そこで私は、人より、少しばかりお酒の事も知っている。
そして、そういう場での立ち振る舞い方も知っている。
バーテンダーの端くれとして、
大事なお客さんが来たら、その社長さんから、
電話が掛かる「少し、手伝ってくれないか」と、
何度も、出掛けて行った。
そこで兄貴ともよく出会った。
兄貴もその社長さんの事を「ゆうさん、ゆうさん」と、
慕っていた。
そんな時、兄貴がふらっと私の店に来た。
「お前の店、ここか」と、
探されたようだ。
それから、何度も、
毎晩のように来られた日も、
そして、豪快に使ってくれる。
何故、こんなに来てくれるのだろうか?
沢山の人を連れて、
よく解らないまま、
私は何気なく対応していたのだが、
ある晩、全てが解った。
かなり酔われていた。
ギターを弾き終え、抱えたまま、
兄貴がポツリと私にこう言った。
「坂本、ゆうさんの事、頼むわな〜」
多くは語らなかった。
しかし、全てが解った。
私が兄貴の慕う、社長さんの手助けを、
お金も貰わず、働く姿を、兄貴は見てくれていたのだ。
こういう事だ。私がその社長を助ける。
だから、兄貴は私を助けてくれていたのだ。
そうだったのか、だから・・・
正に奉仕が先に利は後に・・・
そしてこれが人間「桑名正博」の本当の姿だ。
今までありがとうございました。
心よりお礼申し上げます。
そして、お疲れ様でした。
安らかにお眠り下さい、
BAR in 店主
坂本雅央
追伸
本日、「食べログ」に書き込みを入れて戴いた。
「えーちゃんの嫁」様
多大な評価ありがとうございました。
折れた心が立ち直りました。
感謝致します。
http://tabelog.com/osaka/A2704/A270401/27009296/dtlrvwlst/