黄昏ウイスキー 

大阪は京セラドーム前の大人の小さなBAR「BARin」の日記 

酒通信 母に似た人、、、

今日は、3流バーテンダーの、
懐かしい話を、
少し聞いて頂きたい、
季節は丁度、そう今頃だった。


それは、静かな夜だった。
私は一人で店を開けていた。
オープン直後、掃除に少々疲れ、
一息ついた頃、
おもむろにドアが開いた。
身構えた。そのお客様は入り口に立ち、
店内をジロジロ見ていた。


そして、笑いながら、カウンターに座った。
そのお客様は、年配の女性、
背中に、リックサックを背負い、
靴はスニーカー、ジャージのような服を着て、
そして何故か、ケラケラ笑っている。
この下町で店を構えるようになってから、
少々、行儀の悪いお客様を、何度も迎えた私は、
心の中で、「又か、、、」
と、思った。


背中の荷物を降ろし、
笑いが止まった時に、オーダーしたそのカクテルに、
「ん?」と思ったが、
「そんな訳は無い」と、勝手に思い込んでいた。
レシピ通りにシェーカーに酒を注いだ。
凄い眼光を感じる。


「そんなにシェカーを振るのが、
珍しいのか?」
そう心で思った。
「なんだ、このおばはんは」
と、色んな事を考えたが、
完全に気を抜いている。


ハードシェイク、完全に振り切れていない、
身が入っていない、
出来上がったカクテルを、
上から、横から、ジロジロ見ている。
「何を見てんだよ〜」
そして、一口飲まれた。
そして、二口、
そして、三口、
きっちり、三口、
そして、約10分、
完全なるパーフェクトな飲み方、


「ん?ん?ん?」
「いや、いや、そんな事は無い」
「優しい、味ですね」
と、言われた。
ハードシェイクの分、味わいは、優しくなるが、
その分、腰も折れやすい、どちらを指摘されたのか、
そして、次のカクテルが、静かにオーダーされた。
体が、固まった。
一瞬、バイクレースのような緊張感が走ったのだが、
「ま、まさか?」
いや、まだ、半信半疑だ。


そして、そのカクテルを
同じように、ジロジロと見て、
一口、二口、
そして、三口、
会話は殆ど無い、
約10分、きっちり飲み干した。


「では、最後に」
と、告げられたカクテルで、確信した。
「や、やってしまった、、、
ど、どうしょう、、、」
「覆水盆に返らず」
全ての点が、線で繋がった。
全て、試されていた。
しかも、最後のチャンスを与えてくれている。


恐ろしい飲み手だ。
手が震えた、メジャーカップがカタカタと鳴っている。
最後のカクテル、全神経を集中させた。
一口、見えない無数の糸が、
そこら中に張り詰めていた。
「これは、いいですね〜」
良かったようだ、、、、
そして、二口、
三口、約10分、
完璧だ、、、


申し訳ない気持ちが溢れ、
涙が出そうになった。
この母に似た人に、
完全にふいを突かれた、鼻を折られた。
いや、おかんだったのかも知れない、
少しばかり、カクテルが出来るようになったから、
少しばかり、酒を覚えたからと言って、
天狗になるんじゃない、と、おかんが怒ったのだ。


カクテルをジロジロ見ていたのは、
ハードシェイク故の砕氷(細氷)の、
浮き具合を確認していたのだ。
二杯目に頼まれたのは、
その砕氷(細氷)が、より解るようなカクテルだった。
一杯目で、少しメガネを外されていたのは、
そういう事だったのだ。


そして、三杯目は基本中の基本、、、
最後のチャンスだった。
数日後、その方はきちんとした服装で現れた。
その姿を見た瞬間、
私は、前に立ち、頭を下げ謝った。
「いいんですよ〜私も変な格好で来たから」
やはり、全て読まれていた。
3流バーテンダーとは、こんなものだ。


その方は、転勤で大阪に来られたらしい、
以前は東京にいて、
銀座のBARでいつも飲んでいたようだ。
そのBARは、ドラマ「バーテンダー
の原作の「葛原」さんの
モデル、私の尊敬する。
有名バーテンダーのお店だ。


私はその方の書かれた本で、今も勉強している。
ドラマ「バーテンダー」第6話の先入観とは、
こういう事だ。そして、多く語らずとも、
バーテンダーとは、会話が出来る。


その後、何度も来られるようになったが、
今は又、転勤し、どちらかに行かれたようだが、
この春先の夜空の下、又、どこかのBARの扉を開け、
一杯目のカクテルを頼まれているのだろうか、
そのカクテルとは、
サイドカー」だ。

この語は、以前、病院のコラムに、
掲載した事があるのだが、
その時は、ややデホルメもあったが、
私が、記憶している限り、
これが、正確なやり取りだ。
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