黄昏ウイスキー  TWILIGHT WHISKY

大阪は京セラドーム前の小さな本格的BAR「BARin」の日記 

ドラマ バーテンダー 4話 2

ドラマ バーテンダー
第4話、
バーテンダー、私は三流なのだが、それでも、


お客さんの好みは覚えている。
例えば、ウイスキーのラベルを見ると、
何人かのお客さんの顔が浮かぶ、
カクテルもそうだ。
作ると、誰かの顔が浮かぶ、
あの人が、良く飲んでいた。


あの人が好きだった。
観覧車のように、思い出がゆっくりと回る。
そんな酒の一つ、「スピリタス」を話そう、
あれは、10年程前、オープン当時、
小柄だが、しっかりした体格の男の人が、
来られた。それから、長いバーテンダー経験の中で、
見た事も無い、光景を見る事となる。


バーボンを頼まれた。ストレートだ。
又、別のバーボンを頼まれた。
気が付くと、伝票は二枚に達し、
確か、16杯だった。
当店は45mlなので、ボトル1本だ。
なんだ、ボトル1本か、では無い、


この方はチェイサーを飲まない、
正確には、水を飲まない、
この方のチェイサーは、ジントニック
ビール、挙句は「ホワイトレディー」
信じられない、これが確か、プラス8杯程飲まれていた。
もう一つ、腰を抜かして差し上げよう、
初めの一杯はバーボンでは無く、
実は「スピリタス」なのだ。
その時のセリフが「マスター、すいませんが、
久しぶりなので、喉を焼きたいので、スピリタスを1杯」
訳が解らない、まるで、「喉が渇いたので、水を一杯」のように
スピリタス」を飲まれた。
そしてこれを書くと嘘だと思われるかも知れないが、
そのままのセリフで書こう、


「では、最後に、スピリタスを1杯」、、、、
勿論、ストレートだ。
本当の話だ。
その方は、「今日はどうもありがとうございました」
と、深々と頭を下げ、出て行った、
もう少しで、「ありがとうございました」と、言うのを忘れかけた。
放心状態になった、、、、
その日、そのお客様のあだ名は「バケモノさん」になった。


残念なことに、早い時間、その方は一人だった。
しかし、それから常連となり、目撃者が増え、
嘘では無い事が証明された。
何故なら、何時も同じように飲まれるからだ。


何年か来られていたが、急に来られなくなった。
ある時、ふと現れた。
聞けば、病気になられたそうだ。
病名は「舌癌」、
やはり、大量の飲酒が原因だ。
私が止めれば良かったのかもしれないが、
それでも、どこかのBARで飲まれるだろう、


数ヶ月前も来られたが、二度目の手術で、
殆ど、酒が飲めなくなったそうだ。
正に、「薬と毒の使い分け」だ。
「バケモノさん」が来られなくなり、
来たとしても飲めない、「スピリタス」は
主人を失ったように、冷凍庫の一番奥に、
眠っている、、、


そして極め付きが、「シャトルリューズ・イヴ」
      つづく、、、