黄昏ウイスキー  TWILIGHT WHISKY

大阪は京セラドーム前の小さな本格的BAR「BARin」の日記 

おかん通信 恐怖の箕面温泉スパーガーデン

今日2月1日は、
おかん幸子の誕生日だ。
昭和2年2月1日だから、
年は逆算して計算して頂きたい、
そして、「おかん通信」なのだが、
当店の常連氏等が、
読むのには一向に構わないのだが、
最近外部からのアクセスが非常に多い分、


少し、躊躇してしまう、
それを振り切るのに、
かなりのエネルギーを使う、
そりゃ〜お酒の事や、
医療の事を真面目に語り、
一方、歴史や、文学にまで触れているのが、
「おかん通信」なんじゃそりゃ〜になるだろう、


文章に於ける、
解離性多重人格症のようだ。
笑止!
が、しかし時の彼方で笑う、
おかん幸子は、今日も元気だ!
では40年の時空を、
海馬にまたがり一気に飛び越えよう、


あれは、そう40数年前、
場所は「箕面温泉スパーガーデン」
今で言う「スーパー銭湯」の、
元祖のような場所だ。
今はリニューアルされ、
より豪華になっているようだが、
久しく行っていないので、
どうなっているのだろうか?


当時は、
なかなかな盛況ぶりだったが、
私が幼いときには、
既に少し古い施設になっていた。
TVでも
「みの〜おんせん、すぱーがーでん」と、
CMが頻繁に流れていた。
子供の時は、スパーを、スーパーの間違いだと、
思っていたが、
大人になってスパーの意味が、
ようやく解った。


そしてそこに、
小さな、小さな、遊園地の施設があった。
「びっくりハウス」これは、
部屋がグルグル回るように見える。
錯覚を利用した。
単純な乗り物のような物なのだが、
当時は死ぬかと思うぐらい、怖かった。


そのメインに、
屋根が付いた、
天道虫のような形をした。
かなり大きめの、
車の乗り物があった。
私はそれに乗りたくて、
おかんにキップを買って貰ったが、
どうも、私が小さ過ぎて、
一人では乗れないようだ。
「しゃ〜ないな〜」と、おかんが言った。
で、出た!恐怖の呪文
「しゃ〜ないな〜」


PLランドの恐怖も、
この呪文から始まった、、、
しかし、私は嬉しくて、
直ぐに車に乗り込み、
ハンドルを握った。
おかんは巨体を、
折りたたんだが、
それでも中々入れないぐらい、
そう太っていたのだ。
少し肌寒く、
何かの花が咲いていた記憶があるから、
多分、春先の太陽が眩しい午後だったと思う、


イギリス人なら、
紅茶を飲み、
まどろみの時間だ。
まさか幼子が、
恐怖を体験する時間になるとは、
誰も予想出来ないだろう、
アクセルを踏み、
車は走り出した、
おかんの巨体で、
車は早く走らない、
それでも、私は嬉しかった。


当時流行っていたアニメに、
「マッハ、Go、Go、Go」
という、スーパーカーのレースを、
扱ったものがあった。
そのテーマソングが、
頭に流れた。
次の瞬間、あるシーンが思い浮かんだ。


それは、主人公が、
ガードレールにぶっかりそうになるのを、
巧みなハンドル捌きで、
回避するというものだ。
目の前に、古タイヤを並べた壁が見える、
それが近づいて来る。
更に近づいて来る。
タイヤ、タイヤ、タイヤ、
駄目だ!ぶつかる!
アニメのテーマソングが流れる。
(風も〜震える ヘヤピンカァーブー)


瞬間、私は、左側、
そうおかんの方に、
思いっきりハンドルを切った!
さあ、どうなったか?
1、ぶつかった
2、ひっくり返った
3、おかんが落ちた


残念ながら、どちかもNOだ!
信じられないだろうが、
私の体が、ファっと宙に浮いたように感じた。
な、なんとアニメのように、
片輪走行をしたのだ、
そしてそのままガードレールをかわし、
弧を描き走り続けた。
空中に浮いている私は、
必死にハンドルに、
しがみ付き、何が何だか解らない、
その時、地獄の底から
響くような声がした。


「ま、まざお〜」横を見ると、
おかんが半分、
車からはみ出ている。
地面に背中が触れかけている。
イナバウアーのような形になっている。
いや、「フラッシュダンス」の映画で、
水を浴びた時のポーズになってる。
必死だ、必死に車にしがみ付いている。
顔を起こした。
目だ!目を見ろ!
鬼だ!正に鬼の形相だ!
口だ!口を見ろ!歯だ!
歯がむき出しだ!
噛み付きサルだ!


私はおかんを、
落としてはいけないと、
半泣きになって、
必死にハンドルを、
右に右に回した。
しかしそれがいけなかったのだ。
車は偶然にも、
妙にバランスをとってしまい、
片輪走行に終わりは来なかった。
何故止まらなかったかを、
今考えれば、多分、
恐怖で足を踏ん張り、
アクセルを踏み続けたのだと思う、


片輪のままフラフラした状態で、
尚も走り回る天道虫号、
係員が慌てて飛び出し、
両手を上から下、上から、下と振り続けている。
言いたい事は何となく解るが、
そんな事を言われても、
どうにもならない、
「げぐうぇふ〜っ」
おかんが訳の解らない声を出した。
髪が逆立ち、
完全に怖い顔の仏像に変身している。
十二神将が一人、
リアル伐折羅大将(バサラ)だ!



伐折羅は何かにつかまって、
体を起こそうとしているように見えたが、
私も必死だ。
気にしてられない、
自分で頑張ってくれ!伐折羅!
徐々に伐折羅が近づいて来た。
気配を感じた。
と、思った瞬間、
凄い衝撃を受けた。
ドン、ガラガラガラ、
四つのタイヤが地面に付いて、
車は止まった。
アホの親子は車に乗ったまま、
四つの瞳は遠くを見ていた。
係員の人が、何か声を掛けに来たが、
伐折羅は遠くを見たままだった。


余程怖かったのだろう、
そりゃ〜そうだ、
遊園地の乗り物で、ハリウッド映画のような、
スタントをしたのだから、
しかも長かった、、、
伐折羅が眠りから覚め、
おかんに変わった瞬間、


「ほな、みてみいー!、だから言うたやろ!」
猛烈に怒っているのだが、
事前に何も注意をされていない、
私も悪いが、あなたも太り過ぎだ、、、


やっとの思いで、
恐怖の天道虫号から下りて、
振り返った。おとんが写真を撮りながら、
嬉しそうに、手を振っていた。
妻子が事故り掛けているのを、
楽しそう、と、この男には映ったらしい、、、、